認知症の方への対応の仕方②(認知症介護の原則を守る為に知っておきたい9つの法則)

前回のブログでは認知症の方への対応の心得や原則、9つある法則の内、第1法則を書きましたが、今回はその続きの第2法則から紹介させていただきます。法則を知ることで、認知症の方も介護者の方も安心して過ごせる世界になると思いますので、是非ご覧いただき参考にしていただければ幸いです。

第2法則 症状の出現強度に関する法則

認知症の症状がより身近なものに対してより強く出るというのがこの法則の内容です。

認知症の人は、よく世話をしてくれる介護者に最もひどい症状を示し、時々合う人や目上の人にはしっかりした言動をするのが特徴です。このことが理解されない為、介護者と周囲の人との間に認知症の理解に深刻なギャップが生じて、介護者が孤立することになります。医師や看護師、訪問調査員などの前では、普段の状態からは想像できないほど上手に応答するので、認知症はひどくないと判断されてしまいます。介護者は専門家でさえ本当の認知症状が理解できないのだと思い、絶望と不信に陥るのです。

認知症の人がなぜこうした「いじわる」ともとれる行動をとるのでしょうか。「認知症の9大法則と1原則」の著者、杉山孝博氏は次のように解釈しています。

幼児は、いつも世話をしてくれる母親に対しては甘えたり、わがままを言って困らせますが、父親やよその人に対してはもっとしっかりした態度をとるものです。母親を絶対的に信頼しているから、わがままが出るのです。認知症の人も介護者を最も頼りにしているから認知症の症状を強く出すと類推されています。

第3法則 自己有利の法則

「自分にとって不利なことは絶対認めない」というものです。

言い返しがあまりにも素早く、しかも難しいことわざなどを交えてするので、周囲の人は本人が認知症になっているとはとても思えません。しかし、言い訳の内容には明らかな誤りや矛盾が含まれているため、「都合の良いことばかり言う自分勝手な人」「嘘つきだ」など、本人を低い人格の持ち主と考えて、そのことで介護意欲を低下させてしまう家族も少なくないようです。

こうした認知症の人の言動には、自己保存のメカニズムが本能的に働いているに違いありません。つまり人は誰でも、自分の能力低下や生存に必要なものの喪失を認めようとはしない傾向を持っており、認知症の人も同様なのです。

「自己有利の法則」を知っていると、無意味なやり取りや、かえって有害な押し問答を繰り返さずに混乱を早めに収拾することが出来るようになります。

第4法則 まだら症状の法則

認知症の人は、認知症が始まると常に異常な行動ばかりするわけではありません。正常な部分と認知症として理解すべき部分とが混じりあって存在しているというのが、「まだら症状の法則」です。

本人が認知症であるか、そうでないかどう見分けたら良いでしょうか。介護者の最も大きな混乱の原因の1つは、うまく見分けられなくて振り回されることにあります。初めから認知症状なのだとわかっていれば、対応の仕方をうまくすれば、認知症による混乱はなくなります。

「常識的な人なら行わないような言動をある人がしていて周囲に混乱が起こっている場合、”認知症問題”が発生しているのだから、その原因になった言動は、”認知症の症状”である」と割り切ることがコツです。

物忘れはあるものの、趣味豊かで日常生活では問題ない人から「私の大事な着物を隠したでしょう。返しなさいよ」と、身に覚えのないことを毎日言われたら、誰もがパニック状態になるに違いありません。しかし、寝たきりで全面的に介助の必要な人が言った場合には、「またおばあちゃんがおかしなことを言っている。どうせ本気で言っているわけではないので、聞き流しておこう」となります。言動そのものよりも周囲の捉え方で問題性が大きく変化するのです。

第5法則 感情残像の法則

認知症の人は、第1法則の記憶障害に関する法則が示すように、自分が話したり、聞いたり、行動したことはすぐに忘れてしまいます。しかし、感情の世界はしっかりと残っていて、瞬間的に目に入った光が消えたあとでも残像として残るように、その人がその時抱いた感情は相当時間続きます。このことを、「感情残像の法則」といいます。出来事の事実関係は把握できないのですが、それが感情の波として残されるのです。認知症の人の症状に気付き、医師からも認知症と診断されると、家族は認知症を少しでも軽くしたいと思い、色々教えたり、詳しい説明をしたり、注意したり、叱ったりします。しかし、このような努力はほとんどの場合、功を奏していないばかりか、認知症の症状をかえって悪化させてしまうのです。認知症の人は、記憶などの知的能力の低下によって、一般常識が通用する理性の世界から出てしまって、感情が支配する世界に住んでいると考えたら良いでしょう。介護に慣れてくれば、多くの家族は感情を荒立てさせない介護が出来るようになりますが、少しでも楽な介護をするには、4つのコツがあります。

第1のコツは「ほめる、感謝する」

どのようなことをされても、「上手ね」「ありがとう。助かったわ」などと言い続けていると、次第に本人の表情や言動が落ち着いてきます。

第2のコツは「同情」

「ああ、そう」「そういう事があったのですか」「たいへんですね」のように相づちをうつことです。

第3のコツは「共感」

「よかったね」を話の終わりに付け加えると「共感」になります。

「ご飯おいしかった?良かったね」「その着物、良く似合いますよ。良かったね」

「雨が上がって晴れましたよ。良かったね」というようにします。文字で読むと、話の内容と「良かったね」が、どうして結びつくかわかりませんが、繰り返し話しかけることで、本人は介護者との間に共感を持つようになり、穏やかな表情になってくるのは間違いありません。

混乱の真っただ中にいる介護者は「良かったね」から始めたらどうでしょうか。

第4のコツは「謝る、事実でなくても認める、演技をする、嘘をつく」

認知症の人では「忘れたことは本人にとって事実ではない」「本人の思ったことは本人にとって絶対的な事実である」という原則があります。

食べたことを忘れてしまえば、「食べてない」のが事実。「百万円を貸した」と思い込んでいる人が「借りた金をかえさないのはけしからん。金を返してくれ」と請求するのは当然です。

それを否定して、「ご飯は食べたばかりでしょう」「借りてもいないのに変なことを言わないで」と言うと、こだわりがますます強くなって混乱が続くだけです。

それよりも、「今、夕食の支度をしていますからもう少し待ってくださいね」「今は手元にお金がないので、あす銀行から下してお返しします」と、本人の思い込みをいったん受け入れながら、結論を別の方向に持っていく方が本人の納得を得やすいのです。

つまり、本人の世界に合わせてセリフを考え、演技する俳優になったつもりで、対応するのが良いのです。

今回はここまでです。9つの法則のうち、約半分の紹介が終わりました。少しずつ認知症の理解が進むにつれて、介護される側もする側も幸せな世界に近づいていくと思いますので、次のブログまで是非実践していただければと思います。