認知症の方への対応の仕方(認知症介護の原則を守る為に知っておきたい9つの法則)

認知症の方への対応は、対応する側が認知症を理解しているか、していないかで大きな違いがでます。

自身の認知機能低下で混乱し不安を抱えながら生活をしている認知症の方に対して、日頃の生活の不安を取り除くことが、多くの症状の改善に繋がるのです。

対応の心得は3つの「ない」

「驚かせない」「急がせない」「自尊心を傷つけない」

なかなかうまくいかず、大きな声で急がしてしまい、自尊心を傷つける余計な一言を言ってしまうことはありませんか?「なんでできないの」「やってあげる」こんな何気ない一言が、認知症の方の自尊心を傷つけてしまっているのです。認知症の症状に一番最初に気が付いて混乱し、不安感じているのは本人なのです。周りが寄り添った対応をすることが、安心感を与えて症状の改善に繋がります。認知症でない方から認知症の方の行動をみたら、奇妙に見えることでも、記憶力・理解力・判断力、推理力などの知的機能の低下した人にとっては十分に納得できる言動、説明がつく言動ではないかと思います。それらを誰にでも理解しやすいよう、川崎幸クリニック院長の杉山孝弘氏が「認知症の9大法則と50症状と対応策」(法研)という本を出版されております。9つの法則を知り、1つの原則を守ることで認知症の特性がわかり、認知症の方の症状の改善だけでなく、介護する側のストレスを緩和することができます。

介護に関する原則

「認知症の人が形成している世界を理解し、大切にする。その世界と現実のギャップを感じさせないようにする。」

その為には、本人の感情や言動をまず受け入れて、それに合うシナリオを考え、演じられる名優になる。時には悪役を演じなければならないこともあります。

原則を守る為に知っておきたい9つの法則

第1法則 「記憶障害に関する法則」

記憶障害は認知症の基本的な症状で、「記銘力低下」「全体記憶の障害」「記憶の逆行性喪失」という3つの特徴があります。この特徴が頭にあるだけで、認知症状の大部分は理解できるようになります。ここで、最初に私たちが心得ておかなければならないことは、「記憶になければその人にとって事実ではない」ことです。周りの人たちにとっては真実であっても、当人には記憶障害のために真実ではないのが、認知症の世界では日常的であることを知っておきましょう。

記銘力低下の特徴

記銘力低下とは簡単に言うと「ひどい物忘れ 」であり、同じことを何回、何十回も繰り返すのは、その度に忘れてしまい、初めてのつもりで相手に対して働きかけているのです。忘れてしまわないよう、繰り返し教えても、効果がないばかりか、「この人はくどい人だ、うるさい人だ」と受け取られるだけなので、むしろしない方が良いのです。ちなみに同じことを繰り返すのは、「電気を消してきたか」「鍵を閉めたか)等で一旦玄関を出てから戻るといった、気になる事を繰り返す、私たちと変わらない人間の本性なので、認知症の人だけが異常であると考えないことが大切です。

全体記憶の障害の特徴

認知症が始まると 自身が体験した出来事全体を忘れる ようになります。デイサービスから帰ったあと「今日はどこへ行ってきたの」と尋ねられて「どこも出かけないで一日中言えにいた」と言い、訪ねてきた人が帰った直後に、「そんな人来ていない」ということがあります。周囲の人は、明らかな事実を本人が認めないことに驚き、正しいことを教え込もうとします。「デイサービスでどんな運動したの?」「隣のおじさんと楽しそうに話していたじゃない」などと、手がかりを与えて思い出させようとしても、うまくいかない場合が多いものです。逆に「デイサービスには行っていないし、誰も訪ねてこなかった。この人はなぜ私に間違ったことを思い込ませようとしているのか。騙そうしているのではないか。」と疑念を増し、混乱に拍車をかけることになりかねません。それよりも、「体験したことを忘れるのが認知症の特徴だから、思い出せなくてもそれで良いのではないか」と割り切るのが良いでしょう。

食べた直後に「まだ食べてないから、早くご飯を用意して」「食事をさせないで殺すつもりか」という事象にこの法則が適用できます。「今食べたばかりですよ。これ以上食べるとおなかを壊すからダメですよ」という言い方をするのではなくて、「今準備をしているから少し待ってください。」「おなかがすいたんですね。おにぎりがあるからこれを食べていてください。」というように対応した方がうまくいきます。

記憶の逆行性喪失の特徴

「記憶の逆行性喪失」とは、蓄積されたこれまでの記憶が、現在から過去にさかのぼって失われていく現象です。「その人にとっての現在は、最後に残った記憶の時点」になります。この特徴を知っていると、認知症の人のおかれている世界を把握することができ、どのように対応すればよいかも分かってきます。配偶者の顔が分からなくなり、嫁を妻と思い込んでトラブルを引き起こすことがあります。昔に戻って「自分の妻は30歳代の若い女性」と思い込んでいる本人にしてみれば、目の前の老夫人は自分の妻ではありえないしイメージに一致する嫁が自分の妻であると考えるのは当然です。「何十年も連れ添った私を忘れるなんて!」「お義父さんちがいますよ!」などとご家族は驚いて否定したり嘆いたりしていしまうと思いますが、それよりも「奥さんは何をしてらっしゃるの」「ごはんの支度をしなければならないので、またあとでね」などと言ったほうがうまくいきます。

夕方になるとそわそわして落ち着かなくなり、荷物をまとめて、家族に向かって、「どうもお世話になりました。家に帰らせてもらいます。」と言って、丁寧に挨拶して出かけようとすることが、認知症の方にしばしば見られます。夕暮れ時に決まって起きるので、”夕暮れ症候群”と呼ばれています。30~40年前の世界に戻った本人にとって、昔の家と雰囲気の違う現在住んでいる家は、他人の家であり、夕暮れになれば自分の家へ帰らなければという気持ちになるのだと考えれば理解できるのではないでしょうか。そういう人に向かって、「ここはあなたの家出すよ」と説得しても通じません。玄関に鍵をかけて出さないようにしたりすると、「よその家に閉じ込められた」というとらえ方をして、大暴れするのも無理のないことです。大事なのはその状態の本人の気持ちをいったん受け入れて、「お茶を入れましたから飲んでいってください」「夕食をせっかく用意したので 食べて行ってください」と勧めると落ちついてきます。

本人のしっかりしていたかつての状態を知っていて、認知症になったことを認めたくない本人が変なことを言っていると感じたとき、「記憶の逆行性喪失の特徴」を思い起こすことで、混乱が早く収まるのは間違いありません。

今回はここまでです。認知症の方のQOLは私たちがどれだけ認知症の事を理解しているかで大きな違いが出てくるのです。次回はこの続きになりますので、それまでは今回のブログの内容を実践してみてくださいね。