パーキンソン病患者様の特徴的な歩行障害に対する、らくらく歩行介助法
最近、昔はあまり馴染みのなかった「パーキンソン病」という病名を耳にする方も多いのではないでしょうか、全世界におけるパーキンソン病患者数は2015年の690万人から,2040年では2倍以上の1420万人に増加すると推定されています。 日本は超高齢社会にあり、今後さらに高齢化が進むため、当然、日本でも患者数は増加すると考えられています。その「パーキンソン病」によって起こる運動症状の歩行障害により、転倒して手術や長期入院などで、症状が進行してしまう方や寝たきりになってしまう方も増加しております。こうなってしまう前に、パーキンソン病患者様の特徴的な歩行や介助方法を学んだり、機能訓練でトレーニングすることで、多くのリスクを回避することが可能になります。今回の記事を読んでいただくと、これらのことがわかりますので、是非実践していただければと思います。
パーキンソン病患者様の特徴的な5つの歩行障害
四大症状によって、パーキンソン病患者の歩行には様々な歩行障害が出現します。まずは、どのような特徴的な歩行障害が出現するかまとめてみます。特徴的な歩行障害は大きく分けて五つあります。
- すくみ足になる
歩行の最初の一歩目が踏み出しにくくなる症状です。すくみ足は、歩行開始・方向転換・狭い場所を通るときに生じると言われています。平地を歩くときには、すくみ足が生じる方でも、階段や足下に跨ぐものがあるとすくみ足が生じないことがあります。これを逆説的歩行と呼び、パーキンソン病に特有の歩行だと言われています。
- すり足になる
人の正常な歩行は踵から地面につき、つま先は最後につくのですが、パーキンソン病患者の特徴的な歩行のすり足歩行では、足を床に擦って歩くようになります。すり足歩行で歩くと絨毯の縁などに引っかかり転びやすくなってしまいます。
- 歩幅が小刻みになる
歩くときに歩幅が狭くなり、その際に腕の振りも小さくなります。これは小刻み歩行と呼ばれています。
- 方向転換時にころんでしまう
姿勢反射障害の影響により、方向転換時に転倒しやすくなってしまいます。これは、方向転換の際には転ばないように体のバランスをとることが大切ですが、姿勢反射障害のためバランスを修正することがむずかしくなっています。そのため方向転換の際に転んでしまう方が多くいます。
5.加速歩行になる
歩いているうちに、前につんのめるような姿勢になり速度がどんどん加速してしまう現象です。急に小走りになり、自分の意志では歩行を止める事ができず、壁などにぶつかって止まるか、転んでしまうことがあります。パーキンソン病の特徴的な立位姿勢には、脊柱が曲がっている前傾姿勢があります。前傾姿勢は加速歩行を助長させてしまう原因にもなります。
パーキンソン病患者様の歩行の注意点
パーキンソン病によって歩行障害がみられるようになると転倒リスクが高まります。転倒して怪我をすると寝たきりの原因になることがあるため、転倒によって怪我をしないように転倒を予防することが大切です。ここではパーキンソン病患者ご自身が気をつける方法について説明します。
歩行障害別注意点
1.歩幅が小刻み・すり足の場合
つま先が上がらず歩いてしまうため、足を持ち上げるように心がけて歩きましょう。腕の振りも小さくなってしまうことが多いので、腕を大きく振る事も忘れずに行ってください。また、踏み出した足が踵から地面につくように意識して歩きましょう。
2.すくみ足の場合
はじめの一歩が出しにくい場合は、「1.2.1.2」と心の中でリズムを取るようにすると、足が出やすくなることがあります。その他にも、前に足を出そうとすると意識するのではなく、まず片方の足を半歩後ろに引いてから、その足を前に出すようにしましょう。
3.方向転換をする場合
方向転換では体の急激なバランスの変化に対応することが難しく転倒してしまうことがあります。そのため方向転換をする際には、軸足を中心に小さく回るのではなく、大きく円を描くようにして回ると良いです。
4.加速歩行になってしまう場合
歩いているうちに、前傾姿勢が強まり小刻み歩行になってしまうと加速歩行を助長してしまいます。そのため身体が前傾姿勢にならないように背筋を伸ばして姿勢をまっすぐにしてから焦らないで歩きましょう。もしもまっすぐにすることが難しい場合は歩行車の利用も有効です。
環境を整える
パーキンソン病患者の転倒は本人が気をつけることが大切ですが、その他にも本人が住む部屋の環境を整えたり、歩行を助けたりと介助する側が工夫をすることで転倒予防が可能になります。次はそれらを説明していきます。
パーキンソン病患者は足が上がりにくいため、つまずいて転んでしまうことが多くあります。
したがって部屋を歩いていてつまずかないような部屋作りをしましょう。例えば、絨毯やマットを敷かない・電気コードを動線上に出さない・スリッパをはかない・スロープを設置して小さい段差を解消することなどがあります。他にも歩行時にいつでもつかまれる場所を用意すると良いといわれています。
これはバランスを崩してしまったときに支えになることに加えて、バランスを崩してもつかまれる場所があるから大丈夫だと患者自身の恐怖心を軽減することができるからです。また方向転換に苦手意識があるため、方向転換をしなくても済むように部屋の動線を工夫することも大切です。
特に、通路に物を置かない・家具の配置を変更することなどが効果的です。
転んでしまったときのことを考え、家具の角にクッションテープを貼り、体がぶつかってしまってもケガが最小限で済むようにすると良いでしょう。
家族も対応する
パーキンソン病患者が一人で歩くことが大変なときは手助けしてあげましょう。その際の歩行の手助けでは、当人の左右どちらかの脇から手を取り体を支えます。そして患者の体がまっすぐになるようにして手助けをしましょう。パーキンソン病の患者は前傾姿勢になると、加速歩行になりやすくなってしまいます。そのため歩行の手助けの際には、体をまっすぐに支えてあげることを意識すると良いでしょう。
また、パーキンソン病には運動症状だけではなく非運動症状もあります。非運動症状の中でも注意機能などの認知面に弱さが見られることがあります。注意機能が低下すると、歩きながら会話をする・荷物を持って歩くなどの二つのことを同時に行うことが難しくなります。そのため手助けをしているときは、本人が歩くことに集中できるように工夫しましょう。例えば、荷物を持たせない・過度に話しかけないなどの工夫があります。その他にもパーキンソン病患者は、焦りなどの精神面の作用が歩行に影響するといわれています。不安や恐怖、焦りは転倒リスクを高めてしまう原因になるため、本人に安心して歩いてもらえるように、急かさないようにしたり、優しく声を掛けたりするなどの工夫をしましょう。
パーキンソン病患者様への歩行介助のコツ
パーキンソン病患者様は歩行が不安定で転倒の危険性が高いですが、ピンポイントのちょっとした介護があれば、上手に歩くことができるのです。一般的に知られる3つの方法を紹介したいと思います。
①シャル・ウィ・ダンス歩行
患者様の横に立ち、患者様の手をそっと取って、御本人の脇より少し高い位置まで手を持ち上げ隣に寄り添います。患者様の状態がしっかり起き、前方の視界が広がり、視覚的に目印を見つけて足の運びが良くなります。
②横断歩道歩行
パーキンソン患者様は、障害物や目印を踏み越えることが得意です。これは目印が視覚的キュー(合図)になって、リズムをとって足が出やすくなるのです。平地ではうまく歩けないのに、階段は昇れるという特異な現象もこれで説明がつきます。
平地でも、床に横断歩道のように等間隔にテープを貼ることで上手に歩けるようになるのです。
③足目印歩行
パーキンソン病患者様は歩行中に突然足が止まってしまうことがあります。「床に足が張り付いたようになる」といったように、足がすくんで歩き出せないようになります。
そんなときに試していただきたいのが「足目印歩行」です。
歩行中に足が止まってしまったら、介助者は脇から「シャル・ウィ・ダンス歩行」のスタイルになり自分の足を目印としてもらうように、患者様の前に出してください。すると視覚的情報の刺激で魔法をかけたかのように足が出て、再び歩きだせることがあります。
歩行介助のコツ全てに共通するのが、脳が判断しやすいように、視覚的情報の刺激を与えるということです。
パーキンソン病患者様の歩行訓練
歩行訓練は、移動手段としての歩行能力を維持するためだけが目的ではありません。歩行によって使う手足や身体の筋力やバランスの維持を助け、病気の進行予防にもなります。そのため、パーキンソン病患者さんのリハビリでは、積極的に歩行訓練を行うことが重要です。
パーキンソン病患者さんの歩行は、歩き始めや向きを替える際に、すくみ足や小刻みになりやすいことが特徴です。足首から体にかけての筋肉が、強く持続的に収縮するためです。常に筋肉に力が入り、体が一本の棒のように固くなってしまいます。
そのため
- 体重を前後左右に運ぶことが難しい
- 体を支えるために足が突っ張ってしまう
などの問題があります。
歩行訓練は、固くなった体を以下のように対処しながら行います。
- 歩幅に合わせて横断歩道のような線を引く
- メトロノームや声掛けによってリズムをとる
- 腕を大きく振る
特に、1~2Hz(1秒間に1回~2回程度)のリズムに合わせて腕を振ると効果的です。固くなった筋肉の緊張がほぐれて、健常者のようにリズミカルに歩行が可能となります。歩行訓練の際には積極的に行っていきましょう。
まとめ
パーキンソン病患者の方には、運動症状による転倒リスクが高いため、5つの特徴的な歩行障害を知り、介助方法や環境を整えたり、ご家族の協力を得ることで、多くのリスクを減らすことが可能です。また本人様のトレーニングが最も重要になってくるので、デイサービスなどの機能訓練で実施していただければと思います。